第64回日本映画監督協会新人賞を受賞した工藤将亮監督作の映画『遠いところ』。11月5日(火)東京国際映画祭で上映&トークイベントが開催され、同作で主演を務めた花瀬琴音、工藤将亮監督、日本映画監督協会理事長の本木克英が登壇した。
本作は相対的貧困率の高い沖縄のコザを舞台に、幼い息子と夫と暮らす17歳のアオイ(花瀬琴音)が社会の過酷な現実に直面する姿を描き、国内外の映画祭で高い評価を得ている。
映画『遠いところ』Q&A
日本映画監督協会新人賞受賞について
工藤監督:まさか本当に頂けると思ってなくて、あまり実感がないというのが正直なところです。
この映画が撮影されたのはいつですか?
工藤監督:3年半前、4年弱前ですね。コロナ規制真っ只中で。僕らが取材を始めた頃の景色と沖縄の繁華街の景色が一変してしまって、人が誰もいなくなった時期でした。なるべく人が多い方が良かったんですけど、だいぶ景色が変わってしまって困りました。
アオイ役のオファーについて
花瀬琴音:オーディションだったんですけど、観劇した舞台の後ろにプロデューサーさんが座っていて、こういう内容なんだけどオーディションに来ないかって声をかけられて受けました。撮影中も台本を頂いてなくて全編しっかり分かってやっていないというか、内容は分かってましたけど。ハードなシーンなどはお母さんに見てもらって大丈夫だって通してもらいました。
工藤監督とのコミュニケーションはどうやって?
花瀬琴音:何もないですコミュニケーション本当に・・・一言も喋らない(笑)。初めての映画で全然分からずやっていたので大事なシーンだったりとかは「この後どういう気持ちになる?」とか「この後どうしていきたい?」っていうのはしっかり工藤さんとコミュニケーションをして、じゃあそれでいこうみたいな感じで進めてもらいました。
工藤監督:なるべく役者とは距離を取るようにしていて、クランクイン前の取材とかキャバクラに取材に行かせて頂いたり、当事者の方々とフィールドワークする際は一緒に同行して話しました。だけど僕がこうだって言っちゃうと影響を受けちゃうのでなるべく僕が話さないようにしました。僕はいろんな監督の下でやってきて、いろんな演出方法を見てきて自分が選んだのは、俳優さんが自分で判断して自分で動いて自分で表現できるというのを意識してやろうと思いました。
オーディションはどんな感じだったんですか?
花瀬琴音:殴り合いです。
工藤監督:殴り合いじゃ語弊があるから(笑)。殴り合いのシーンとか喧嘩するシーンとかは見させて頂きましたけど。彼女は当時18歳で事務所に所属する前で、本当に彼女がいなかったら、この映画は成立していなかったです。
現地取材はどんな感じだったんですか?
工藤監督:僕は結構長くいました。彼女は撮影する2ヶ月前に入って実際に美術部が作ったロケセットに住んでもらって。役作りしながら当時そこにいたキャバ嬢の皆さんと友達になってもらって、僕らは遠目から距離を取るようにしてました。
花瀬琴音:全部に疑問を持っていたら進まないと思うくらい疑問だらけの新しい経験をさせていただきました。純粋にその環境に慣れていこうという気持ちで。実際沖縄で働いているお母さんたちとか、学校に行っていないお姉さんたちをそのまま表現させていただいたというか、キャバクラで働いていても今日は子供を迎えに行くから1時には帰るとか、お酒を飲んでいても子供を迎えに行くから3時には帰るとか、子供のことを考えているとすごく感じました。
アオイ(花瀬琴音)さんの旦那さん役のマサヤ(佐久間祥朗)について
工藤監督:本人はお母さん想いのいい奴なんです。演じたマサヤというキャラクターもまた社会的弱者で、彼の育った環境も決して裕福な家庭ではなくて、弱者がさらに自分より弱いものに暴力を振るうって、すごく人間的な説理というか教育のこともなんですが。彼の役っていうのは演じにくかったと思いますが、僕は演出で気を付けて彼が悪いんだってしないようにしたし、彼もそれを理解してくれて一生懸命演技をしてくれました。
花瀬琴音さん演じるアオイは実在の女性をモデルにしたのですか?
工藤監督:いろいろなアオイちゃんがたくさんいて、その子たちのエピソードを僕がオリジナルでいろんなエピソードに振り分けて書かせていただきました。なのでオリジナルといえばオリジナルですし、実話といえば実話です。
沖縄でのロングラン上映について
花瀬琴音:本当にありがたいなという気持ちです。こんなに長く上映してくださるとは思ってなかったですし、大胆なことを言うと沖縄県の皆さんが味方になってくれるとは思っていなかったです。いろいろな意見はあると思うんですけど寄り添ってくれる方が多いので、感謝の気持ちでいっぱいです。
工藤監督:僕もまさか1年半上映が続くと思っていなくて、シアタードーナツ・オキナワでは続いて上映していますので、皆さん宣伝してもらえると嬉しいです。
撮影前、撮影後、上映前、上映後で沖縄のイメージって変わりましたか?
花瀬琴音:沖縄で撮っている時も皆さんが協力してくださって、皆さん本当に温かくて優しくて、本当のことだと思って心配してくださる方もいて。そこだけが沖縄県の魅力じゃないってことは感じてましたし、舞台挨拶などで行かせていただいた時も素敵な場所だと感じましたね。
映画『遠いところ』
出演:花瀬琴音、石田夢実、佐久間祥朗、長谷川月起、松岡依都美、小倉綾乃、NENE、奥平紫乃、高橋雄祐、カトウシンスケ、中島歩 ほか
監督・脚本:工藤将亮
主題歌:唾奇「Thanks」
製作:Allen、ザフール
配給:ラビットハウス
©2022「遠いところ」フィルムパートナーズ
映画『遠いところ』は全国でロングラン上映中!
第37回東京国際映画祭
今年で第37回を迎える東京国際映画祭。「東京から映画の可能性を発信し、多様な世界との交流に貢献する」という理念に基づき、日比谷・有楽町・銀座エリアから、映画の魅力を発信。開催期間は2024年10月28日(月)~11月6日(水)