CS放送TBSチャンネル1で毎月1回のペースで放送中の黒沢薫(ゴスペラーズ)、中西アルノ(乃木坂46)がMCを務める音楽番組『Spicy Sessions』。今月行われた4月、5月放送回の収録を、ゴスペラーズをデビュー当時からよく知り、数々のアーティストのオフィシャルライターを務める音楽ライターの伊藤亜希が、前回に引き続き取材。収録後のMCインタビューと合わせて、番組の魅力を伝える。
昨年12月にTBSチャンネル1でスタートした音楽番組『Spicy Sessions』。毎回歌唱ゲストを招き、MC をの黒沢薫(ゴスペラーズ)と中西アルノ(乃木坂46)が、ゲストやバンドと“セッション”しながら音楽を作りあげていく。黒沢いわく「このスリリングさは、ライヴに近い」という展開が、観覧客の目の前で繰り広げられる。観覧募集には毎回1000通を超す応募があるという。4月上旬に収録された、4月、5月放送分の収録の様子とともに、『Spicy Sessions』という新しい形の音楽番組の魅力を掘り下げていく。
収録レポート
4月放送のゲストはMay J.。ゲストとMCの計3人で、宇多田ヒカルの「First Love」をカバーしたが、May J.と中西アルノがメインで歌唱する中に、黒沢が随所にハモりを加え、原曲のメロディーの繊細さを生かしながらも、流麗なハーモニーを展開し、原曲とは違った華やかさを表現していた。歌い出しのハミングのようなアドリブを黒沢が担当するなど、驚くような歌割りアレンジもあり、刺激的な1曲になっていた。この回の収録で、「A Whole New World」(映画『アラジン』より)と「Endless Love」(ルーサー・ヴァンドロス&マライア・キャリーVer.)をMay J.とともに歌った黒沢。「Endless Love」については「カバーにあたって過去1番練習した」そうだ。ハイトーンがシンボル的な武器の黒沢だが、ゴスペラーズで歌唱する時とは異なった、透き通るような声でのハイトーンへのアプローチにも注目だ!
ゲスト候補の選択や、その後のゲストとの打合せなどにも参加し、リクエストをくみ取り、歌う曲を決めていくという黒沢。収録当日も、バンドやゲストのリハーサルに立ち会い、歌割りやアレンジを細かく調整していくが、それが本番収録の時も当たり前に繰り広げられる。バンドマスターである佐藤雄大と、観客の目の前で打ち合わせをしながら、アウトロを変更したり、きっかけをまとめたりと、フルスロットルである。そんな中で、番組名物(?)になりつつあるのが、本番中のいきなりの中西アルノへの無茶ぶりだ。この日の収録でもロングトーンの高低差をつけるアドリブをリクエストしていたが、中西アルノは見事にクリアしていた。
『Spicy Sessions』には、歌い手・中西アルノの成長ドキュメントという側面もある。回を重ねる度、否、リハーサルから本番の間に、そして本番で歌唱している間にも、どんどん歌い手として成長していく中西アルノ。ゆえに黒沢は「もっと出来そうだから、ちょっと難しいリクエストをついつい無茶ぶりしちゃう(笑)」と言う。
5月放送のゲストは川崎鷹也。ゲストの音楽的なルーツをトークで深く掘り下げていくのも『Spicy Sessions』の音楽番組としてのこだわりだ。ブラックミュージックをルーツに持ちながら、時代を問わず様々な音楽を聴いている黒沢が、ゲストの言葉を受け、分析しながら話を進めていく。まるでインタビューだ。川崎がギターを始めたきっかけに、黒沢と中西がびっくりする場面もあった。川崎と黒沢がコラボしたコブクロのカバー「轍-わだち-」では中西がタンバリンに挑戦。川崎と黒沢が譜面を見ながら歌割を決めている後ろで、バンドメンバーにタンバリンの叩き方を教わったり、入り方の練習をしていたりする姿がじつに微笑ましかった。黒沢が「川崎鷹也くんを知ったきっかけの曲。どうしても一緒に歌いたくて」と選んだ曲は川崎を一躍有名にした「魔法の絨毯」。セッション前に、曲の歌詞について質問するなど、楽曲セレクトだけでなく、ゲストへのリスペクトを感じる場面も多々ある。このゲストへのリスペクト、もっと言ってしまえば、音楽に対するリスペクトを番組を通して見せるのも『Spicy Sessions』というドキュメントのひとつである。幾つものドキュメントが、目の前で交差し、形を成していく。ドキュメントだからこそ、NGテイクも隠さず放送する。それが『Spicy Sessions』という音楽番組の在り方だ。
MCインタビュー
収録後の黒沢薫と中西アルノをキャッチ。感想を訊いた。
黒沢さんの無茶ぶり、スパルタっぷりをつっこみたいです。
二人:(笑)
ちょっとスパルタすぎません?(笑)
中西:ありがたいことに…あぁ~(笑)
黒沢:はははははは(笑)
中西:ハモりは、個別にラインで覚えなきゃっていうのが頭にあったんですけど、この『Spicy Sessions』を重ねていくうちに、なんとなく、そこが少しずつ感覚的に分かるようになってきたり。1番大きいのは、あの環境下、すごい歌い手の方ばかりいる中で、度胸を培えていること。この現場以外でもたくさん生きているなと思うところがすごく多いので、自分にとってはありがたいことです。
黒沢:“本当のこと言うとマジきついんです”とか言われたらどうしようかと思ってた、良かった~(笑)。初回の収録の時からですけど、ここまでいけるだろうって思ってリクエストする。そうするとアルノさんは出来るんですね。だったら次はここまでいけるんじゃないかと。だからこそ、毎回ハードルは上がっていきますよね。それと、毎回ゲストがお手本にもなるんですよね。例えば、今日は“アドリブをやってください”っていう無茶ぶりがあった。それをやってくれるゲストがいるから、アルノさんにとってはお手本にもなるんですよね。ただ歌が上手い、どや!って番組にはしたくない。だからアルノさんがいるわけだし、アルノさんにもいろいろ毎回吸収してほしい。それが音楽界、エンターテインメント界の未来にも繋がることだと思うから。
「First Love」をカバーしていましたけど、2人にとっての大切な曲ですよね。「First Love」を歌う中西アルノさんを見て、この番組のMCをお願いするきっかけになった、と。
黒沢:そうなりますね、結果的に
中西:元々、宇多田ヒカルさんがすごく好きで。乃木坂46の研修生だった時に、自分達で課題曲を1曲決めて歌うっていうグループワークがあったんです。その時、私が宇多田ヒカルさんを好きすぎて「Flavor Of Life」をあげたんですね。そしたらもう、難しすぎて歌えない(笑)。で、結果的に曲は変わってしまったんですけど。
黒沢:なるほど(笑)
中西:私にとっては、宇多田ヒカルさんはすごく身近な存在で。身近って言うのもちょっと、おこがましいですけど、カラオケで小学生の時からよく歌っていました。
アルノさんと黒沢さんの音楽的ルーツは、一部重なるところがあるのかもしれないですね。宇多田ヒカルさんが出て来た時、衝撃じゃなかったですか?
黒沢:衝撃だった。ガチのR&Bが出て来たって。
そうですよね。同じです。R&B寄りのポップスはあったけど、ガチのR&B、だけどキャッチ—で大衆性があるのが衝撃的でした。
黒沢:そうですね。メロディーとかも歌いやすいわけじゃないですからね、宇多田ヒカルさんの曲は。
中西:難しいですね。
黒沢:でもそれを小学生の頃から歌ってたんだ。さっきの「Flavor Of Life」の話とか相当面白いけどね(笑)。他の研修生の子、嫌がらなかったんですか?
中西:ドラマの主題歌だったので、みんな知ってて。やろうやろうってなったんですけど、歌ってみたら低いし高いし、メロディーは難しいしで、残念という結果に。聴いてたのと全然違うよって。
黒沢:歌ってみたら、聴いてた時と全然違うっていうのは名曲の証です。
中西:へぇ!そうなんですね。
アルノさんは、今回の収録ではタンバリンにも挑戦。本番収録中、バンドメンバーの方に叩き方のレクチャーを受けたり、譜面をみて質問したりしていましたね。
中西:私、そもそも“セッションってなんぞや”っていうところからスタートしているんですよね。そこをやっと自分の中でかみ砕くことが出来てきて、少しずつチームとしてやれているなって思えるようになって。楽器のこともそうだし、一緒に歌ってくださる方とも、呼吸が一緒になるのを感じられるようになってきた。楽しさがどんどん変わっていくっていう。ますます楽しくなっているし、毎回本当に、緊張はしますけど、収録が楽しみなんです。
放送情報
CS放送TBS チャンネル1にて
『Spicy Sessions with May J.』
2024年4月27日(土)午後11時30分〜深夜0時30分
『Spicy Sessions with 川崎鷹也』
2024年5月18日(土)午後11時00分〜深夜0時00分
番組公式ページ:https://www.tbs.co.jp/tbs-ch/series/yRNA2/