第39回東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」部門選出の映画『いえないふたり』上映後Q&Aイベントが2026年10月28日(水)角川シネマ有楽町で開催され、W主演の川島鈴遥、倉沢杏菜、まつむらしんご監督が登壇した。

児童劇団で出会った白石真琴(川島鈴遥)と石黒香純(倉沢杏菜)は、家族合同キャンプで起きた事件をきっかけに疎遠になってしまう。6年後、高校の演劇部で再会したふたり。互いに言葉にできない思いを抱えたまま、再び同じ舞台に立つ。演劇の舞台上で「今まで言えなかったこと」を演じることを通じて、引き裂かれたふたつの家族の時間が再び動き出す。
上映後観客からの質問に出演者、監督が答えるQ&Aイベント。最初の質問では、親友同士の関係修復というテーマに、家族間の重い問題と演劇を絡めた本作の脚本について、まつむら監督が着想のきっかけを明かした。監督によると、親友同士の間に起きた問題を乗り越え、関係を取り戻していく物語は、以前から温めていたアイデアだったという。一方で、ふたりがどのように関係を修復していくのか、その具体的な方法が見つからず、長い間、映画化に至らなかった。転機となったのは、コロナ禍に高校演劇を観る機会を得たことだった。「彼らが舞台で行っていることが、演技なのか、本音なのか、ちょっと分からなくなるような時間を体験したんです」。その体験から、演劇という要素を物語に組み込めば、離れてしまったふたりが再び関係を取り戻す過程を描けるのではないかと考えたという。脚本の執筆自体は約1か月で進んだものの、その後、完成までに約3年を費やした。改稿を重ねるなかで、当初の脚本から大きく形が変わり、監督は「原型として残っているシーンは、たぶん3つぐらいしかないと思います」と明かした。

続いて、難しい心情を抱えた登場人物を演じるうえでの役作りについて質問が及ぶと、川島は「3年前の企画からお聞きしていて、最初から少しだけ見させていただいていたので、私の中に真琴像みたいなものは少し構築されていました」と振り返る。撮影前には、まつむら監督、倉沢とともに重要なシーンをピックアップし、リハーサルを実施。登場人物がそれぞれ何を思い、どのような感情を抱えているのかを話し合いながら、演技の軸を固めていったという。また、リハーサルでは、台本に沿った芝居だけでなく、ふたりの関係性を築くためのエチュードにも取り組んだ。川島は「どんな感覚で、どんな感情を持つんだろうかということを、お互いにつかみ合う時間を共有できました」と語り、撮影に入る前から役柄への理解を深めていったことを語った。

一方、倉沢も本作で大きな課題となったのが、物語のなかで演じる劇中劇だったと説明する。撮影前には川島とともに高校演劇や学生演劇を実際に観劇し、舞台に立つ学生たちの姿に触れたという。「学生演劇のすごさって、会場に行かないと分からなかったなとすごく感じました」と微笑む。学生ならではの熱量や、思いが一気にあふれ出す瞬間をどのように表現するのか。倉沢は観劇で得た実感を大切にしながら、準備段階からリハーサルにかけて、劇中劇の表現を組み立てていった。
倉沢は、香純という人物の心情を表現する難しさについても言及。倉沢は「石黒家は、悲しむ権利があまりないんですよね」と語り、白石家が抱える罪悪感とは異なる立場から、香純の心情を理解する必要があったと説明した。「出来事として悲しいことが起こっているけど、悲しむ資格がないというところは、香純を演じるうえですごく難しかったです」と話し、撮影現場ではまつむら監督や共演者らと話し合いながら、石黒家の人物像を丁寧に作り上げていったという。
観客からは、物語のなかで演じる芝居と、劇中劇として舞台上で演じる芝居をどのように差別化したのかという質問が寄せられ、川島は劇中劇では登場人物の感情があふれ出す瞬間を意識していたと説明する。「この作品では、嘘がないように、説得力を持ってお芝居することが必要になるなとずっと思っていました」と語り、物語のなかの日常的な場面では、登場人物がその場を生きていることの真実味を大切にし、劇中劇では、それまで抑え込まれていた感情があふれ出る瞬間を表現できるように意識したという。
倉沢も、真琴と香純は日常生活のなかでは本音を話したり、自分の感情を表したりすることが難しい関係にあると説明。その一方で、演劇という台本のある世界では、役を通じてふたりの気持ちが通じ合うことを大切にしたと語った。「ずっと抑えて、抑えて、それが抑えられなくなる瞬間がどこなんだろう、というのはすごく考えて、意図的に作っていったような感じです」と振り返った。ふたりの言葉を受け、まつむら監督は劇中劇のシーンを撮影した際の様子を語り、「ずっと閉じられていた扉が、演劇というフィクションの鍵によって、ようやく開けられる」と、まつむら監督はそうしたイメージを大切にしながら撮影に臨んだと説明。ふたりが体育館のステージに上がった瞬間、自然と涙があふれ始めたことも明かし、登場人物の感情が解放される瞬間を捉えようとした撮影現場の様子を語った。

続いて、川島と倉沢のキャスティングについて質問が及ぶと、まつむら監督は「お二人にして良かったと、もう毎日思いながら撮影していました」と、信頼を明かした。監督によると、川島は企画の立ち上げ段階から真琴役を想定していたという。川島が参加したワークショップでの印象をきっかけに、川島を主演に据えた物語を書いてみたいという思いが生まれ、今回の企画につながった。
一方、倉沢については、その明るさやおおらかさ、華やかさが香純役に合っていると感じたという。監督は、二人が撮影準備の段階からキャラクターを丁寧に掘り下げてくれたことにも感謝を述べ、「演技に関しては、現場ではあまり言わなくても済むぐらい」と振り返った。
観客からは、真琴と香純が自分たちの気持ちを脚本に反映させようとする場面について、窓の外の木々やカーテンが風に揺れる演出が印象的だったという感想も寄せられ、この風は意図的に作り出したものなのかと尋ねられると、まつむら監督は自然に吹いた風を生かした演出だったと明かした。まつむら監督は撮影前から、風が重要な要素となり大切にしたいと考えていたという。当日の朝、カメラマンと相談し、該当のシーンでは窓を開けることを決めた。監督は、窓を開けることでふたりの関係性が少しずつ近づき、何かが変わっていく様子を、言葉で説明せずとも映像で伝えられると考えたという。「窓を開けることだけで、ちょっとふたりの関係性が近づくというか、何か変わるというのが、言葉で説明しなくても絵で伝わるなと思ったので、それはアイデアとして採用しました」と登場人物の心の変化を映像に託した演出、細やかな画づくりへのこだわりを明らかにした。
イベント終盤には、真琴と香純を取り巻く家族のキャスティングについても質問が寄せられ、まつむら監督は、まず臼田あさ美の出演が決まったことに触れ、演じる人物には、「悲しみを抱えながらもそれに負けない強さが必要だった」と説明。「最後、そこに悲しみに負けないタフさみたいなものを持っている人を、まず決めようと思いました」と振り返った。
そのうえで、もうひとりの母親役・菊池亜希子については、日常を生きる人物のリアリティーを大切にしたかったと語り「日常は一見すると平坦で穏やかに見えるものの、そのなかには考えなければならない問題が潜んでいる。そうした日常の奥行きを表現するため、日常を自然に生きている印象のある俳優に演じてもらいたいと考えた」と説明。キャストの選定にも、まつむら監督の明確な意図が込められていることを明かした。
イベントは、観客からの質問に登壇者が丁寧に答える形で進行し、作品の背景にある創作の意図や、俳優陣の役作りへのこだわりが明かされた。映画『いえないふたり』は、第39回東京国際映画祭「Nippon Cinema Now」部門に選出され、今回の上映がワールドプレミアとなった。全国公開は2027年3月を予定している。
映画『いえないふたり』

出演:川島鈴遥、倉沢杏菜、菊池亜希子、臼田あさ美、斉藤陽一郎、三浦貴大
監督・脚本:まつむらしんご
エグゼクティブプロデューサー: 本間憲
プロデューサー:甲斐真樹、菊地陽介
音楽:d.l.hiro×田井千里
製作幹事:レプロエンタテインメント
制作プロダクション:スタイルジャム
配給:スタイルジャム
配給協力:ミッドシップ
宣伝:ミラクルヴォイス
「いえないふたり」製作委員会:レプロエンタテインメント スタイルジャム ロードアンドスカイ・オーガニゼイション E&E
©2026「いえないふたり」製作委員会
2027年3月全国公開!
